大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(う)2837号 判決

被告人 秋庭広子

〔抄 録〕

所論に鑑み、原判決を検討してみるのに、原判決は、事故発生の経緯と題する項目において、各般の証拠を仔細に掲記し、被告人に対する罪となるべき事実を認定した理由を説明しているのである。そして、右原判決の説示によると、原判決は、司法警察員作成の昭和四六年五月二七日付実況見分調書中の立会人宇佐美勁三の指示説明、原審における証人宇佐美勁三、同遠山忠昭に対する各尋問調書、被告人の昭和四六年七月九日付司法警察員に対する供述調書を専ら措信するに足りるものとし、これらの証拠により、被告人は、原判示市道を星が丘派出所方面から国道一六号線方面に進行し、原判示横断歩道の手前一時停止線附近で右方道路から交差点に向って進行して来る車両を認めたが、先に左折できると思って、原判決添付の別紙図面4<B>の地点(横断歩道上)まで進行し(以下地点の表示は原判決添付の別紙図面による)一時停止したうえ、折柄右方道路から時速四〇キロメートルで交差点に進行していた宇佐美勁三運転の自動車が4<ニ>まで進入してきていたのに、右方道路の安全を確認することなく、同乗者遠藤敬子の「いいよ、」の合図に従つて発進し、時速三〇キロメートルで交差点に進入し、4<×>地点で右宇佐美車と衝突し、同人他二名に対し原判示の各傷害を与えたものであり、本件事故は、被告人が右方道路の安全確認を怠った過失によるものである、と認定しているものである(罪となるべき事実の項および事故発生の経緯の三、被告人の過失の項)。ところで、原判決の認定及び原審検証調書によると、被告人が一時停止したとされている4<B>地点と原判示衝突地点とされている4<×>地点間の距離は、六・〇メートルであるが、一旦4<B>地点で停車した被告人車が、六・〇メートルの距離を時速三〇キロメートルで走行して交差点に進入し4<×>地点にいたったと認定することは、他に特段の事情の認められない本件においては、経験則に照らしとうてい首肯し難いものというべきである(なお、当審及び原審における証拠によれば、原判示被告人の進行した部分の交差点の道路は平坦であり、被告人車の構造は通常の前進三段切替のライトバンであって、急加速をなし得べき事情は認められない)。そして、被告人が、右の如く一坦4<B>地点で停車後時速三〇キロメートルで進行し4<×>地点に達し、宇佐美車が時速四〇キロメートルで4<ニ>地点から4<×>地点まで(原判決及び原審検証調書によれば右4<ニ>地点と4<×>地点との距離は七・七メートルである。)進行していたことを前提として始めて両車の衝突地点が4<×>地点であるとの原判決の説示は了解されるのである。従って、右の如く、4<B>地点で一旦停車した被告人車が時速三〇キロメートルで原判示交差点に進入し、衝突地点が原判示4<×>地点であるとの事実のもとに、各般の証拠の証明力を判断して、被告人の原判示の過失を認定した原判決は、その前提たる前記事実の認定について経験則違反のかどがある以上、原判決の認めた過失の内容となる事実の認定に誤認があるものといわざるを得ず、論旨はこの点において理由がある。そして、原判決のこの点の瑕疵は判決に影響を及ぼすことが明らかなものであるから、その余の論点に対し判断を加えるまでもなく、原判決は失当として破棄を免れない。

(荒川 谷口 時國)

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